今回はフランス西部の街Dole(ドール)在住の、飯田奈央子さんにお話をお伺いしました。
ご主人が経営する日本料理店「Restaurant IIDA-YA(飯田屋)」と「IIDA Shoten(飯田商店)」を手伝いながら、和菓子を作り、不定期で教室も開催。日々フランスのお客様と接しています。
元々は洋菓子を作られていた奈央子さん。インタビューでは、お店のこと、どうしてフランスに行ったのか、なぜ和菓子を始めたのか、フランスならではのことなど、たくさんお話を聞いてきました。
これから海外で和菓子や和食、日本文化を伝えたい、と考えている人には参考になりますよ。
奈央子さん、フランスでの生活について教えてください!
スイスとの国境に近いDole(ドール)に住んでいます。
元々はRestaurant IIDA-YAに就職して、サービスや調理を担当していました。
フランスに住んで6年目の2017年12月にIIDA Shotenがオープン。現在はそのお店の店長として、スタッフと協力しながら、日々お客さまと接しています。
IIDA Shotenでは、日本から取り寄せたものを中心に、お酒やお茶を始め、お皿や急須などの食器、雑貨、飲料、お菓子などを販売してます。自家製の焼き菓子などもありますよ。
最近では、手作りの和菓子も店頭に並べ始めました。
今は「いちご大福」ですね。大福はフランスの人にもとっても喜ばれています。これからは3色団子も作って販売していこうかとも考えています。
9月開催のドールでのお祭り。今年のテーマは「日本」
今年9月21から23日に、ドールで毎年恒例の chat Perche*(シャペルシェ)があります。
これは町をあげてのお祭りで、今年のテーマは日本。お祭りを日本一色で染めるのです。ちょうど今年は日仏交流160周年ですしね。
シャペルシェ当日は、メインストリートに提灯を飾って、和太鼓のパフォーマンスを行ったり、和菓子も出して。あとはIIDA-YAで400名規模のパーティもあり、と盛りだくさん。今はその準備に忙しくしています。
今回の規模でイベントを開催するのは初めてなので、挑戦者の気持ちでいます。イベントを通じて人との関わりも増えるし、自分も向上できるから、楽しみながらやっています!
*chat Percheはフランス語で鬼ごっこという意味。直訳は高い木に登る猫だとか。猫はDole(ドール)の街のシンボル。「猫が街をかけまわる」とか「露店をかけまわる」というイメージで、祭りの名前がchat Percheになったそうです。
IIDA Shotenのお客さんは地元の方が多いですか?
そうですね。地元の人達が来てくれます。あとはレストランのお客さまもいらっしゃいます。お茶やお酒を、あるいはお寿司を作るのに調味料を買いに来られ、大福を作るために白玉粉を買いに来られる方もいますよ。
店頭にいると、お客さまと会話できるので、どんなものが食べたいのか、とかニーズや嗜好も分かって、とても役に立っています。
店頭では「試飲」や「試食」をすすめて、日本の食品のおいしさを伝えるようにしています。
特にドールはフランスでも田舎町。日本の文化や食はまだまだ未知の世界です。だから、お客さまも分からないものには手を出しにくい、というのもあります。
そこで自分が勧めると、やはり安心するのか、購入する方が多いですね。
フランスの方は、和菓子お好きですか?
「いちご大福、おいしいね」と言ってくださる方も多いです。
でも、種類によっては口に合わないものもあって、例えば練り切りとか。練り切りは2年前に町のお祭りで出してみましたが、残念ながら好まれず、惨敗でした
ドールでも、日本のことを知っている方もいます。アニメの影響も大きいですね。特に若い子は、アニメオタクも多くて。3色団子はアニメで見たから食べてみたい、という要望があったほどです。
日本のことが好きな人は、本当に好きで。また一度好きになると、馴染みになってくださる方も多いんです。だから私も、和菓子や日本のモノをどうにかフランス人のツボにはめたい、と楽しみながらやっています。
去年は和菓子教室を開催されたそうですね。どんな様子でしたか?
地元の方や、IIDA-YAのお客さまなど、大人から子供まで総勢15名で教室を開催しました。
あんこの作り方を紹介したり、みんなでどらやきの皮を作って焼いたり、それから練り切りの茶巾絞りのデモンストレーションも入れて。
すごく喜んでくれました。
奈央子さんはもともと日本で製菓をされていたそうで、なぜフランスに行かれたのですか?
もともと海外に行きたいという気持ちがあって、その思いが一層高まったのが、製菓学校時代のフランスへの短期留学でした。
子供の頃からお菓子作りが好きだったので、製菓学校へ入学したのですが、学校選びも海外留学プログラムがあるところを選んだほどなのです。
残念ながら、学校のプログラムは当時の情勢不安で中止になりましたが、どうしても行きたかったので自費で行きました。
実際にフランスに行ってみたら、オープンな感じがとっても自分に合ってました!滞在中はフランス各地を巡って、お菓子を食べ歩きました。
そこで魅了されたのが、地方のお菓子。パリのような都会ではなく、街の中心から少し離れたエリアにあるお菓子でした。それらは、毎日食べたくなるようなシンプルなものだったり、お母さんが家にある材料でサクッと作ってくれるものだったり。
美しいケーキを作るパティシエよりも、素朴なお菓子作りに惹かれるようになったのです。
製菓学校卒業後は?
学校卒業後は都内のカフェに就職しました。
カフェで働いている間も、やっぱり「フランスに行きたい」熱がわいてきまして。
特にあてもなかったけれど、フランスに行くということだけは決めて、勤め先にも「フランスに行くから、数ヶ月後に辞めます」と宣言しちゃいました。
でも現地の語学学校に行くのでは満足できなかったから、経験も語学力もない自分が何とかフランスへ行く手段はないものかと、必死で探しました。
とにかくツテを求めて人に会いに行き、海外支援の団体を訪ね、ベビーシッターにも応募してみたんです。で、見つけたのがIIDA-YAの求人でした。早速応募して、手続き含めて、カフェを辞めて半年後にはフランスに行っていました。
奈央子さん、さすがの行動力ですね
自分は有言実行型だと思っています。周りに「私、やります」と言ってしまえば、あとに引けないし、やらざるを得ないし。
だから、今悩んでいる方は、ぜひ周囲に宣言してしまうことをおすすめします。そうしたら行動するから。
レストランIIDA-YAはいつオープンされたのですか?
2010年です。当時、主人はフランス料理を学ぶために、フランス各地のフレンチレストランで働いていました。
開業のきっかけは、Arbois(アルボア)という街での修行時代に、周りから「日本食を食べたいので、日本食レストランをオープンしてほしい」という要望があったからです。その要望に背中を押されて、アルボアから少し離れた、現在のドールで開業しました。
奈央子さん、最初はIIDA-YAで接客を担当されていたそうで
はい、最初は接客です。フランス語はまだ十分ではなかったけれど、とにかく必死に身振り手振りで、フランス人のお客さまや同僚とコミュニケーションしました。3か月くらいで日常会話は出来るようになりました。
そのうちに「お菓子を作ってみる?」と言われて。製菓学校も出ているし、カフェで働いていた経験もあったし。抹茶クッキーをはじめ、洋菓子に抹茶を加えたデザートなどを作り始めました。それからお菓子作りの現場に戻っていきました。やっぱりお菓子作りが好きなので、楽しかったですね。
なぜ、和菓子を取り入れようと思ったのですか?
じつはレストランのお客さまに、段々と日本通の方が増えてきたのです。お客さまから「あんこ作れる?」と聞かれるし。「日本人なのに日本のお菓子を知らないのか」とか「日本人なら知っているでしょ」と軽いノリで言われたこともありました。
幼い頃から和菓子は好きでしたが、和菓子は手軽に自分で作るイメージがなくて。子供の頃のお菓子作りも、クッキーやクレープなら出来るかなと思い、始めたのです。それが今の製菓につながったんですけどね。和菓子は作るというよりは買って食べるものと思っていました。
フランスで和菓子をよく知らないことが、恥ずかしいと思うようになりまして。
そこで2年前の夏、日本に戻った時に、京都で1週間集中して和菓子を勉強しました。あんこの炊き方から、練り切り作り、その他和菓子作りも含めて。すごく勉強になりました。和菓子は洋菓子よりも想像以上にシンプルだな、と率直に思ったのです。
フランスに戻ってからは、自家製あんを出したり、練り切りを出してみたり。お客さまからも、和菓子への要望が増えてきたのです。そして、去年の和菓子教室の開催(前述)に至りました。
今や寿司職人は大勢いるけれど、和菓子を作る人は圧倒的に少ないんです。フランスでもドールは田舎なので、和菓子とのコンタクトも無くて。パリなら虎屋もあって多少は和菓子に触れる機会もありますが。
だからドールで和菓子について何も知らない人達に食べてもらって、和菓子の良さを伝えていくのはとても楽しいです。
和菓子を作るにあたって、フランスならではのエピソードや悩みはありますか?
フランス、特にドールの人は定番を長く好む傾向があります。流行を追う人はあまり多くないようです。お菓子も、種類を増やすよりは、商品を1~2点に絞って、長く愛されるものを出していこうと考えています。
フランス人は好き・嫌いがはっきりしています。新しいお菓子を食べてもらうと、本当に好きになってくれた人は、週に何度も食べにくるし、一方でダメだと本当にダメで。反応がはっきりしていて分かりやすいです。
味は「はっきり」としたものが好まれます。例えば抹茶、ゆず、ほうじ茶とか。琥珀糖も喜ばれました。ワイン入り琥珀糖。あんこを作る時も、砂糖をやや多めにして作っています。
だから、日本のような和菓子を作るのではなく、フランス人の好みをベースにして、その中で和の良さをどう出すかを大切にしています。
お菓子作りだけでなく、お店の運営でも試行錯誤の連続です。
ドールで日本のことを知っている人が増えているとは言え、やっぱり知らないことが多くて。全く知らないものにはなかなか手を出しにくいようです。
例えば、この前もそば茶をお店で販売してみましたが、そもそもそば茶の味が想像できないから。未知との遭遇みたいなところもあって。とにかく試飲して、味を知ってもらうようにしています。
お店の雰囲気作りもそうですし、ネーミングもフランス人に分かりやすいようにする、とかいろいろ工夫をしています。
これからの目標を教えてください
今後もIIDA Shotenをメインにしながら、いろんなことをやっていきたいです。来年には店内にカフェスペースを作って、日本を好きな人が交流できる場所を作る予定です。カフェではお客さんと会話をしながら、日本の文化や良さを伝えていきたいです。
海外で日本人として日本の良さを伝えていくのはすごく楽しくて、それは私の使命だと思っています。
さすがにここ数年はないけれど、私がフランスへ行った2012年頃は、まだ日本をちょんまげの国だと思っている人もいました。今でも勘違いは多いですけどね。だから正しい日本のことを伝えていきたいなと思っています。
一方で、日本の方にもフランスやドールの良さを伝えたいし、自分が日仏の架け橋となっていきたいと思っています。
インタビューは以上です。
奈央子さん、これからもますますのご活躍、応援しています!皆さまも、フランスを訪れた際には、ドールに足をのばし、IIDA-YAさんを訪ねてみてくださいね。
フランス・ドールについて
ドール(Dole)市は、ワインの産地ブルゴーニュのお隣、Jura(ジュラ)県にあります。スイス国境に近いエリア。街の歴史も古く、街道の交差する要所だったそうです。
現在は、フランスの歴史と技術の街に登録され、ゴシック建築のノートルダム教会もあり、美しく落ち着いた街並みです。
<ドールへのアクセス>
パリやリヨンからTGVで2時間半ほど。Dijon(ディジョン/マスタードで有名な街ですね)からは近いとのこと。ちなみに大西洋側のブルターニュにもドル(Dol)という街がありますので、お間違えのないように。
IIDA-YAとIIDA Shotenさんについては、下記ホームページやFacebookをご覧ください。
https://www.facebook.com/IIDA-Shoten-125002548171155/